クマってどんな動物
あまり知られていませんが、実は世界には8種類のクマが生息しています。これらのクマ類は約2000万年にヨーロッパに出現したウルサブスという小型の食肉類を共通の祖先に持ちます。食肉類とはネコ科、クマ科、イヌ科、アザラシ科などの代表される哺乳類の総称です。しかし、ウルサブスは現存する多くのクマ類と同じように、食肉類でありながら肉食には依存せず、樹上の植物を多く利用する植物質に偏った雑食性の動物であったようです。それから長い年月を経て進化が進み、それぞれの生息環境に適応した生態を獲得しながら、現在の8種のクマ類へと分かれていきました。そのなかには、肉食性に特化したホッキョクグマ、タケ類に依存するジャイアントパンダ、アリ類を好んで食べるナマケグマ、そして植物質に偏った雑食性のヒグマやツキノワグマなどがいます。
日本国内にはこれら8種のうちの2種が生息しています。北海道のみに生息するのがヒグマ、そして本州と四国に生息するのがツキノワグマです。
ツキノワグマが生息する地域 世界の生息状況
ツキノワグマ(Ursus thibetanus)はアジアクロクマとも呼ばれるアジア大陸に生息する森林性の動物です。西はイランから東は中国、北朝鮮、韓国、そして日本まで広範囲に分布しています。主には大陸に分布していますが、島嶼部では、台湾、海南島(中国)、日本の本州と四国に分布しています。
世界では分布域と生息頭数が減る傾向にあり、国際自然保護連合(IUCN)によるレッドリストには「危急種(Vulnerable)」と記載されています。また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の「附属書Ⅰ」に掲載されています。国内においても、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律により「国際希少野生動植物種」に指定されており、国際的に希少性の高い種と認識されています。
森林開発による生息地の消失や胆のう(熊の胆)を目当てにした過剰な捕獲が本種の生息を脅かす原因とされています。
国内の分布
現在の日本には、本州と四国にツキノワグマが生息しています。かつては九州でも生息していましたが、2012年に環境省により絶滅が認められました。
ツキノワグマが日本列島に渡ってきたのは、大陸と日本列島が地続きになっていた約40~60万年頃前の最終氷期と考えられています。大陸から現在の対馬海峡のあたりを通り、九州や中国地方に入り、徐々に本州全域に分布が拡がりました。その後、大陸から日本列島が切り離されて遺伝的交流が断たれ、ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonica)という日本にだけ生息する国内固有亜種となりました。数十万年の時を時をかけて遺伝的な分化はさらに進み、現在では琵琶湖から東の「東日本グループ」、琵琶湖から中国地方の「西日本グループ」、そして四国地方と紀伊半島の「四国・紀伊半島グループ」の3つのグループに分られることが分かっています。
近年の本州ではツキノワグマの分布域が人里近くにまで拡大する傾向にあり、それに伴う出没件数や被害報告が増加しています。一方で、四国のように絶滅が危惧されるほど生息頭数が減少している地域も存在します。